浅黒くごつごつとした大きな男の手が汗ばんだ肌の上を這う。
体が熱い。熱くてたまらない。噴き出した汗が玉のように肌に浮かび、びくりとその身が震える度に雫となって落ちてゆく。ぱたぱた、とシーツの上に落ちる汗の小さな音は自らの口から洩れる熱を帯びた嬌声に阻まれて聞こえなかった。
「あっ……っ、ふ、んぅっ……っ」
腰をがっしりと抱えられて大きく広げられた両脚の間を鍛え上げられた浅黒い肌の男の身体が前後する。本来の用途とは隔絶した使われ方をしているアナルは、いっそグロテスクとも思えるほどに太くくっきりと血管の浮き出たペニスをしっかりと咥え込んでいた。
ごちゅ、ごちゅ、と鈍い音と共に穿たれる熱い楔にとろとろに蕩けて熱を帯びた内部はごりごりと擦られ、強い快感と圧迫感に組み敷かれた男ははくはくと酸素を求める魚のように喘ぎその身を反らす。頭の芯が焼き切れそうなほどに全身が熱く、互いの身体の間で可哀想なほどにびくびく震えるペニスは腹に着きそうな程に反り返り、とぷとぷと溢れる密で腹筋を濡らしていた。
「気持ち良いな? アサ……ほぉら、俺の子種が欲しいと吸いついて離さない」
黒く長い髪を乱雑に掻き上げながら浅黒い肌の男は楽し気に笑う。
アサ……菊池旭は一度ぎゅっと瞬きをして涙でぼやける視界をクリアにした。自分に伸し掛かる浅黒い肌の大柄な男は金色の目を細め、旭の両脚を抱え直してぐりぐりと腰を揺らした。
「んんっ……っぅ、あっあっ、それっ」
腰が浮き、熱く蕩けた最奥にぐりぐりとペニスの先端を押し付けられてバチバチと目の前に火花が散るような強い快感と鈍い痛みにシーツを握り締めながら身悶える。
気持ち良い、気持ち良い、何も考えられなくなる。自らの喉の奥から押し潰されるような低い声と甲高い嬌声がひっきりなしに溢れ出し、ビクビクと戦慄く体の震えを止められなかった。高いところまで昇り詰めそうな浮遊感、蓄積し続ける熱が苦しくて腹の奥が何かを求めるようにきゅんきゅんとひくついているような感覚。早く解放されたい、でももっとこの快楽に浸かっていたい、知らない場所まで連れて行かれそうな期待と不安。得も言われぬ快感をこの身に教え込む男へ全てを委ねてしまいたい。
ずろろろ、とわざとゆっくりと引き抜かれるペニスが過敏になった内部の肉を擦ってゆく。抜いて欲しく無くて旭の身体は思わずきゅうっと太く熱い楔を締め付けて追い縋る。するとその懇願に応えるかのようにごりごりと肉を掻き分けながらもう一度ゆっくりと埋め込まれてゆく。
「あ゛、あ、あっ」
押し出されるように声を上げながら旭は喉を反らして重く強い快感に全身をビクビクと震わせて目を見開く。気が狂いそうな程にゆっくりとゆっくりと時間をかけて押し込まれてゆく硬く圧倒的な存在感を持つ男のペニスは、この男に教え込まれた旭の弱いところを悉く押し潰しながら奥へ奥へと進んでいって、旭はたまらず頭を振った。パサパサと緩く癖のある焦げ茶の髪がシーツを打つ乾いた音は、抑えられない自らの苦し気で甘ったるい嬌声に阻まれ旭の耳には届かない。
「い、いくっ……イクっ、イッ……あ゛っ」
ビクッビクッと身を痙攣させながら必死に訴える旭に対し、浅黒い肌の男はその美しい顔を歪めて恍惚と笑う。尖った白い犬歯がくっきりと見えた。
「良いよ……一緒に逝こう」
男の声が掠れる。彼も大きな快感に飲まれそうなのだ。
男の大きな手が互いの身体の間でヒクヒクと震えていた旭のペニスを握り込んだ。ずり、ずり、と掌全体で擦られ、それと同時にどちゅっと最奥を抉られた旭はバチバチと目の前に閃光を見た。
「ッ! ああっ……!」
ビクッビクッと腰が浮きびゅくっと自らの腹に熱いものを吐き出す。そして、衝撃のままにぎゅうっと内部を締め付けると頭上の男が獣のように低く呻いた。
「っ……はっ……!」
どくりと旭の中で震えたペニスはびゅくびゅくっと勢いよく内部に熱いものを注ぎ込んでゆく。たっぷりと長い射精に旭は腹の奥がじんわりと暖かくなってゆくような感覚を覚えつつ、深い絶頂に思考が霞がかってゆくのを感じた。
「たっぷり注ぎ込んでやったから……ちゃんと孕むんだよ」
そう言って浅黒い肌の長髪の男は金色の目を細めうっとりと笑う。男なのだから孕むわけがないだろうと言い返してやりたかったが、もう口を動かすことさえ億劫だった。
旭が瞼を完全に落とし切る直前、美しく筋肉のついた男の背中からばさりと音を立てて真っ黒な翼が広がった。
ピピピピピ……という電子音で目が覚めた。
見上げた天井はまだ薄暗く、ベッド脇の窓に引かれたカーテンの隙間から朝日が白い帯となって模様を描いている。大きく息を吐いて身を起こした旭はすぐにその身の違和感に気づき眉間にくっきりと皺を寄せた。
そろりとベッドから抜け出して肩を落としながら浴室へ足を向ける。パジャマ代わりのスウェットパンツと下着を一度に摺り下ろすと、濃いグレーのボクサーパンツはべっとりと黄色みがった白いもので汚れていたのだった。
「……またかよ」
大きなため息と共に旭は独り言ちる。
それは、ここ数日毎日のように見続けている夢だった。
浅黒い肌に黒く長い髪の見知らぬ男は夢の中で旭の身体を組み敷き、やけに丁寧な手つきで固く強張る身体を解して犯す。夢の中だというのにそれはあまりにも気持ち良くて、目が覚めると下着は夢精でべっとりと汚れているのだ。今年二十五歳になった旭にしてみればまるで中高生みたいではないかと恥ずかしくなり落ち込んでしまう。
思えば前の彼女と別れてからもう一年が経っている。単純に欲求不満なのだろうとは思うのだが、それにしたって自分よりずっとガタイの良い男に抱かれて喘がされる夢というのが納得がいかない。これまで男に抱かれた経験どころか、同性を恋愛対象としたことも無いのだから。
しかし、夢だとわかっていても今回の夢はいつにも増して強烈だった。自分のものより倍以上の大きさと長さのあるペニスで奥の奥まで貫かれてぐりぐりと抉られる経験のない激しい快感は、女性とのセックスとは全く違う悦楽だった。
洗面所で汚れた下着を水洗いしながら、旭はずくりと腰の奥が甘く震えた事に気づき慌てて頭を振った。
「っ……ばかばかしい」
あんなものはただの夢だ。さっさと彼女でもつくったほうが良いのかもしれない。少し気は引けるがそういう店に行って欲求を晴らしてくるのもひとつの手だろう。それとも、こうも毎日淫夢を見て夢精してしまうなんて何かの病気の前触れではないだろうか。先月会社で行った健康診断では何も引っかからなかったのだが。
旭は陰鬱となる気持ちをシャワーで洗い流し、すっかり着慣れたスーツに着替えて出社するのだった。
等々力不動産は地域密着型の中規模な不動産会社だ。現社長が一代で築き上げ、従業員は二百名程度。県内に支店を十数店舗有している。営業に新卒で入った旭は今年で入社三年目であるが現在働いている支店では最も若い社員だった。
営業職にとって若さというものはメリットでもありデメリットでもある。若く清潔なイメージの旭は特に女性受けが良く、独り暮らしの部屋を探す女性の心を掴みやすい。若い男性も同年代である旭には話やすいようで契約に結びつけられるようになってきていた。だが逆に年配の男性には舐められやすい。こればかりはもう少し年齢を重ねて貫禄がつかなければどうしようもない事なのかもしれないが、共に働く先輩たちからはあまり気にせず自分達を頼るようにと言って貰えている。
職場環境は悪くは無い。給料もそれなりに貰えており賞与も出る。だがいかんせん、若いというだけで色々と雑務を押し付けられる事も少なく無いのだった。
「顔色良く無いよ菊池君」
駅前のビラ配りを共に任されていた先輩社員の渡辺が心配そうに旭に声をかける。平日昼間の駅前はベビーカーを押して歩く親子や高齢者ばかりで、立ち止まって不動産屋のチラシを貰ってくれる者は少なかった。
「え、そうですか?」
「そうだよ、自覚無い? ちゃんと栄養あるもの食べてる?」
にこやかな笑顔でサラリーマン風の男性にチラシを差し出し、それを無視された渡辺が旭の傍にやってきた。
「いやー、最近はずっとコンビニ弁当で」
「ご飯作ってくれる彼女とかいないわけ?」
「いませんねえ。それに今の時代女の子だからって料理出来るとは限りませんよ?」
それもそうか、とのんびりとした口調で言う渡辺は三十代半ばで左手薬指には真新しい指輪がきらりと強い日差しを反射して光っている。自分が結婚したばかりだからだろうか、それとも唯一の後輩である旭を構いたいだけなのか彼はよく旭の体調や食生活を心配してくれるのだ。
「菊池君若いんだからさあ、合コンでもして彼女つくったほうが良いよ」
「はあ、合コンですか」
学生時代は何度も合コンに誘われ参加したものだが、女の子と話すことよりもグラスが全員に行き届いているかやつまらなそうな人はいないかが気になってしまってどうにも上手くいかないのだ。
それでも大学時代に一応彼女はいたしそこそこ長く付き合っていたのだが、お互い社会人になってからすれ違いが多くなり去年の春に別れてしまった。喧嘩別れをしたわけでは無いので後悔は無いが、きっとあんな夢を見てしまうのもどこか人恋しく思っているからなのだろう。
「彼女って、どうやったら出来るんですかねえ」
ため息交じりに呟いた声が思いのほか深刻そうに響いたのだろう、渡辺は「菊池君ならきっといい人が見つかるよ」と元気づけるような言葉をかけて曖昧に笑った。
午後から支店に戻り数人の客対応と内見の案内をこなした。終業時間になっても書類仕事が終わらず、結局職場を出たのは午後七時を過ぎていた。今日は内見希望の客が多かったせいもあり、移動距離が長く疲労に帰路に着く足取りは重い。どこかで夕飯を食べて帰ろうかとも思ったが、家に買い置きのカップ麺と缶チューハイがあったことを思い出しどこへも寄らずに家に帰ることにした。
旭の住む賃貸マンションの最寄り駅は職場から二駅で、駅からは昔ながらの商店街を抜けて少し歩いた先にある築八年の五階建てだ。四階の角部屋に前まで着いた旭はキーケースを取り出し、ガチャリと鍵を開けて玄関ドアのノブを回した。
部屋には煌々と明かりがともっていた。一瞬、朝電気を消し忘れて出ただろうかと焦ったものの次いで鼻腔を刺激したのは優しく食欲を擽る美味しそうな出汁の香り。なぜ、と疑問に思うと同時に誰もいない筈の室内から声が聞こえた。
「おかえり、アサ」
低く艶のある男の声。旭は反射的に顔を上げる。この声に聞き覚えがあった。
部屋の奥から長い脚で歩いて来たのは美しい男だった。
身長は一七八センチと高身長の部類に入る筈の旭より更に頭一つ以上大きい。ぴったりとした黒いシャツ越しにもわかる立派な筋肉に、ひと目で東洋以外の血が入っているだろうと分かる浅黒い肌。切れ長の目は金色に輝き、豊かな黒い髪は絹のように滑らかな艶をもって背中まで流れている。
にっこりと目を細めて笑ったその男は、ここ数日夢の中で旭を抱き続けている男の姿をしていた。
揚げ出し豆腐って家で作れるんだな、と旭は思った。
大き目の揚げ出し豆腐は黄金色の餡を纏っており小葱と鰹節まで添えられている。箸を入れると程よい弾力があり、切り分けた一片を口に運べば上品な出汁の旨味に鰹節の香りが口いっぱいに広がって、出汁をたっぷりと吸ってほろほろと崩れる衣と豆腐の舌触りにほっとする。
食欲を誘う香りは赤魚の西京焼きだ。高級な魚では無いが、箸で解し一口頬張ると濃いめの西京味噌に食欲が刺激され白い飯が進む逸品になり、炊き立てで艶やかな白飯をがつがつと口に放り込んでしまった。濃いめの味付けに白飯の甘さが際立ち、赤魚一枚で何杯もおかわりをしてしまいそうだ。事実半分ほど食べ終えたところで白飯の茶碗は空になってしまったが、すぐに炊きたての白飯がこんもりと盛られたおかわりがテーブルに乗せられた。
西京焼きの脇に添えられているほうれん草のお浸しもまた、濃くなった口の中をさっぱりさせるのに良い仕事をしている。そしてみそ汁は油揚げと玉ねぎがたっぷりと入っていて、素朴な麹味噌とふくよかな出汁の風味がどこか懐かしさを感じる一杯だった。
「美味かった……こんなに美味い家庭料理を食べたのは久しぶりだ」
旭は心底満たされた気持ちでテーブルの上に並べられていた料理を全て平らげて手を合わせる。けして高級な食材や料理では無いのだが丁寧に出汁から取られた手抜きの無い美味さだった。
大学入学を機に故郷の新潟から離れ、もう何年も実家に帰っていない旭は久しぶりに外食以外で誰かの手作りの料理を食べたような気がする。去年まで付き合っていた彼女は料理が得意なタイプでは無かったのでデートの際は基本的には外食だったのだ。
「そうか、君の口に合ったようで良かったよ」
目の前から聞こえて来た低く艶のある声に旭は一瞬にして我に返った。
がばりと勢い良く顔を上げると、それほど大きくは無いダイニングテーブルを挟んだ反対側に座って頬杖をついていた男と目が合った。
浅黒い褐色の肌にタイトな黒いシャツと同じく黒いパンツ。長い脚を少し窮屈そうにテーブルの下で組み、黒く艶やかな長い髪を背中へと流した男はくっきりとした二重の金色の瞳で旭を見つめ返していた。まるで役者かモデルのように整った顔をしている。
「っ?! え、ちょっ、何で俺普通に飯食ってたの?!」
そうだ、仕事を終えて帰宅したら独り暮らしの部屋に何故かこの男がいて、ダイニングテーブルには食欲をそそる料理が並んでいたのだ。驚いて警戒したはずだというのに、旭はいつの間にかスーツのジャケットを脱いで食卓に座り幸福感すら感じながら腹いっぱいに美味い食事を平らげていた。
「せっかくアサの為に作ったんだ、美味しく食べて貰いたいからちょっと大人しくしてもらったまでだよ」
そう言って笑った男の細められた金色の瞳が怪しく光ったような気がして、旭はぞくりと背筋に寒気を感じた。
「……あんた、誰。なんで俺の家にいんの」
漸く警戒心を前面に押し出して旭は椅子を引き軽く腰を浮かせる。いざという時にすぐに逃げ出せるようにと思ったが、スマートフォンはダイニングテーブルの上で男の手元に置かれていた。
「誰、なんてつれない事言うなよ。毎晩あんなに仲良くしているじゃないか」
仲良く、と含みを持たせた言い方をした男はうっそりと美しく笑う。じくりと腹の奥が疼き、旭はここ数日ずっと見続けている夢を思い出した。浅黒い肌の美しい男にじっくりと身体を開かれ、経験したことの無かった快楽に堕とされていく夢。
確かに目の前にいる男は、その夢で何度も何度も旭を抱いた男と同じ姿をしている。
唯一の違いと言えば、夢の中の男は旭をじっくりと快楽に溺れさせながら背中にある黒く大きな翼を広げていたことだろう。
「っ……ありえない、だって、あれは夢で……」
ガタリ、と音を立てて男が立ち上がる。旭より頭ひとつ分大きな男はゆったりとした動きでテーブルを回り込み旭の前に立ち、旭を見下ろした。旭はその動きを目で追っていたが、目の前に立たれて漸く逃げ出すチャンスを失ったという事に気づく。椅子ごと後ろに下がろうとした旭の腰を、男の長い腕が抱き寄せた。
「え、あ、ちょっと」
「アサ、いい子だから落ち着いて」
低く艶のある声で囁かれた旭はびくりと肩を揺らした。
この男は夢の中でも旭の事を何故かアサと呼ぶ。その声で、その顔でその名を呼ばれただけで旭は条件反射的にぞくりと腰の奥の方が戦慄いた。駄目だ、こんなのはおかしい、あり得ないと思うのにこの男はどう考えても旭が夢の中で幾度も肌を重ねて来た男としか思えなかった。
「お、俺は……」
口を開くと旭を抱き寄せた男の匂いがふわりと鼻腔に広がる。どことなくエキゾチックで甘い香り。そしてそれに混じる男の香り。けして強すぎる香りでは無いはずなのに、旭はくらりと脳が揺れたような気がした。じわりと口の中で唾が湧き出てきて、こくりとそれを飲み下す。確かな体温と甘い香りは夢では感じた事が無いものだった。
バクバクと心臓が酷く音を立てて暴れている。
「名乗るのが遅くなったね。俺はエドシエル……アサ、お前の悪魔だよ」
「エド、シエル……悪魔?」
名前なんて聞いている場合じゃない。今すぐこの頭のおかしな男から逃げなければ何か酷いことをされるかもしれない。頭の片隅ではそう思っているというのに、旭はじわじわと自分の奥底から湧き上がってくるような熱くどろどろとした衝動に戸惑って動けずにいた。
エドシエルと名乗った男は美しい金色の瞳を細めて笑う。相変わらず片腕で旭の腰を抱きながら、もう片方の腕を持ち上げ彼を見上げる旭の頬を長くごつごつとした指の背でするりと撫でた。
「っ……」
途端、旭はぞくぞくとした震えがうなじから腰のあたりを駆け抜けて肩がびくりと跳ねた。この指の動きを、見下ろす楽し気な金色の瞳を良く知っている。旭をぐずぐずに蕩けさせる前に見せるものだ。またじわりと唾が湧いてきて、飲み下したごくりという音がやけに大きく響いた気がして顔が熱くなった。
「アサ、可愛い俺の男……お前を迎えに来たよ。たっぷり愛してやるから、ちゃあんと孕むんだよ?」
まるで愛おしいものでも見るように蕩けた金色の瞳、楽し気に笑う赤い唇から覗く白い歯、アサと呼ぶ低く甘い声。どれもみな夢の中で旭の身体を快楽に染めたものであり、旭の正常な思考を霞ませていくものだった。
少し身を屈めたエドシエルの近づく顔に自然と瞼を伏せてしまう。触れた唇が暖かく、鼻腔いっぱいに広がる男の香りに頭の芯が甘く痺れて来る。
「んっ……!」
抵抗なく唇を開いた旭の口腔にぬるりと入り込んで来た長い舌のその熱さに、体がビクンと震えた。この熱は、この生々しい感触は夢で味わった事が無い。途端ぼんやりとしていた思考がクリアになり、慌てて抵抗しようとエドシエルの胸を押して引きはがそうとするものの、服の上からでもわかるしっかりと鍛え上げられた厚い身体はろくに運動もしてこなかった旭の力などではびくともしない。
「っ……ん、ふっ……」
エドシエルは旭が引こうとした顎をやんわりと、だが少し強引さを滲ませて指で軽く上向かせると更に深く口腔に厚く長い舌を潜り込ませる。逃げようとする舌はすぐに絡めとられ、ぬち、ずりゅ、と舌の表面同士が擦れ合うと旭は全身の毛穴がぶわりと開き産毛が逆立つようなぞくぞくとした感覚が走り思わず彼の袖を掴んだ。分厚い舌は旭の口腔を余すところなく這い回り、上顎をぞりぞりと擦られるとひくんと肩が震えてたまらず鼻から高い声が漏れてしまう。
「は、ふ……ん、ふっ……」
たっぷりと時間をかけた濃厚なキスがたまらなく気持ちが良い。頭の中がふわふわと緩んでいき、同時にじわりと身体が熱くなってゆくようだった。溢れそうな唾液をこくりと飲み下して旭は自らも彼の分厚い舌に自らの舌を擦り付ける。ぬちゅ、ずりゅ、ずりゅ、と下品な音が口腔から耳に響きじわりと涙が滲む。甘く痺れて来た舌先をじゅうっと吸われるとカクンと膝が崩れ、咄嗟に目の前の男の肩に腕を回してしがみ付いた。
唇が離れる。熱をもった舌が外気に晒され少しひんやりと感じ、唇が離れてしまったことを残念に思う。じくじくと下肢に重い熱が溜まり、旭は苦し気にひとつ息を吐いた。
「っ……え、エド」
「うん、エドで良いよ、アサ。もう我慢出来ない?」
突き放さなければいけない。こんな得体の知れない男、夢の中から来た男だなんてそんな非現実的な話を信じられるわけがない。両脚に力を籠めて、それから思いきり突き飛ばしてからスマートフォンを奪い返して玄関から逃げよう。逃げて、すぐに警察を呼ぶのだ。それが一番良いに決まっている。
うっとりと細められた金色の瞳が旭を見下ろす。
旭は甘苦しい熱に耐え切れず、こくりと顎を引いて頷いた。
おかしい、普通じゃない、こんな事はあり得ない。そう思うのに彼の金色の瞳を見ると逃れられなかった。肉厚な長い舌で喉奥まで届くのではないかと思うほどに口腔を余すところなく舐られてゆく。ずりゅ、ずりゅ、と舌腹同士を擦り付けられるとむず痒いような感覚があり、互いの舌が溶け出してゆくようなふわふわとした快感にじわりと肌が汗ばんできていた。
こんなキスをしたのは初めてだ。だが、夢の中では幾度も幾度も彼とこうして密度の高いキスをしてきたのを覚えている。夢の中とやっていることは同じなのに、夢の中よりもずっと五感が鋭くなっているのを感じた。
「っ……ん、んっ、は、ふっ」
たまらなく心地が良い。じわりと生理的な涙が目尻を濡らし、旭は迷わず男の首に腕を回す。夢の中と同じように男は……エドシエルは旭の唇を貪りながらベッドに横たわる旭の薄いブルーのワイシャツに手をかけた。トラウザーからワイシャツの裾を引き抜き、潜り込んだ掌がしっとりと汗ばんだ肌に触れると旭の肩がひくりと揺れる。にゅるっとすっかり蕩けたような舌同士を押し付けながら、その指はきゅうっと旭の乳首を摘まんだ。
「んっ! は、ぁっ」
じりっとした鈍い快感に旭は身を強張らせる。男の乳首など何の為にあるのかと思っていたというのに、男に抱かれる夢を見るようになってから旭はつい興味本位で自慰の際乳首を弄るようになっていた。夢の中でこの男に愛撫される度に旭の身体は敏感に反応を示していたし、たまらない快感を覚えていたように思えたからだ。実際に弄ってみたところで最初は殆ど何も感じなかったのだが、一週間ほど続けていたらじんわりとだがじれったいような疼きを感じるようになってきていた。
エドシエルは摘まんだ乳首を指の腹ですりすりと押し潰して擦りながら一度離した唇をもう一度かぶりつくように、そして更に深く塞いですっかり熱く蕩けてきた舌を再びぬちぬちと絡ませてくる。
「ん、んっ……っ、ぁふ、んッ」
ぬりゅ、ぬりゅ、と舌腹を執拗に押し付けて擦りつけながら時折上顎をざらりと擽られると鼻に抜ける声が漏れてしまう。ぞく、ぞくっと頭の芯と腰の奥の方から同時に疼きながら増してゆく熱と満足に取り込めない酸素のせいで思考がぼやけてきて、気持ち良いのか苦しいのか自分でもわからなくなってきていた。ぐちゅぐちゅと濡れた水音と小さく漏れる熱を帯びた声がどこか他人ごとに思えて、それでも酸素を求めはふりと息を吸うと同時に目尻から流れる涙が驚くほどに熱いと感じる。
ずっと擦られ続けていた乳輪がいつの間にかふっくらと膨らんできて、くにくにと乳首を転がされるとじんじんと切ない痺れが腰の奥の方へと響いて思わず膝を擦り合わせてしまう。深くしつこいキスが気持ちいのか、乳首を刺激される事が気持ち良いのか、旭はわからなくなってきていた。
「アサ、お前はやっぱりいやらしくて最高だよ」
漸く唇を離し、エドシエルは満足そうに金色の美しい瞳を細めて笑う。いやらしいとは何だと言い返したいのに長く深いキスに息が上がってしまった旭ははふはふと息を吸うほかない。脳が熱でどろどろに溶かされそうなキスは初めてで、旭の何もかもがついていけていなかった。
「いつものように、お前は俺に身を任せていればいい。お前の体を俺は良く知っているから」
あんなのは全部夢だ、夢だったはずだ。それなのにエドシエルは夢で何度も見たように美しい笑みを浮かべながら、夢の中と同じように旭の衣類を脱がしてゆく。旭は彼のその手つきを良く知っていたし、これから彼が自分の身に与える甘美な時間も知っている。
散々指先で弄んでいたふっくらと立ち上がった乳首があらわになると、エドシエルは躊躇なく真っ赤な舌を押し当ててずりゅっと舐め擦った。途端、びりびりっと鈍い電流のような刺激が腰骨を震わせる。
「んッ……ん、あっ……あ、あ、ふっ」
驚くほどに熱い舌がぷっくりピンク色に主張している乳首を押し潰し、こそげ取ろうとするように何度もずりゅ、ずりゅ、と擦る。かと思えば尖らせた舌先で左右に弾くようになぶられ、そしてぐにゅっと押し潰してはちゅうっと吸われてまた尖らされた。じんじん、じんじんと腰まで甘く重い痺れが響いて堪らない。びくっびくっと肩と腹筋が無意識に小刻みに跳ねるのを止められなくなってゆく。こんな感覚は、こんな快感は知らない。夢で見たものと現実ではまるで違う。体が熱い、逃げ出したい、苦しい。
「あっあっあっ、やっ……やっ、だめ、なにっ……あっ、やだっ」
乳首を舐められているだけだ、そう分かっているのに喉の奥が震え押し出されてくる嬌声が止められなかった。もう片方の乳首も同じように熱く真っ赤な舌先でぷっくりと勃起させられ、濃いピンク色に熟れたところを美味そうになぶられて旭は逃げ出そうとするように腰を引く。しかし男は、悪魔は、けしてそれを許してはくれずやんわりとボクサーパンツ越しにペニスを握りこまれて旭はビクンと身を跳ねさせた。
「良かった、しっかり気持ち良くなってくれているみたいだね。アサはこうされるのが好きだろう?」
男の長く形の良い指が下着の布越しにゆっくりと根元からペニスを撫で上げ、張った部分の下を爪でカリカリと引っ掻く。ビクッと腰を浮かせた旭をエドシエルは上から抑え込み、再び乳首をぢゅうっと吸いながら掌全体を使ってペニスを擦り始めた。
「ふっふぅっ、んっ、あッ、だめ、それっ……っ! んんっ」
ペニスへの直接的な快感が加わり、旭は焦った。エドシエルの体格の良い体で遮られ見えないが自分のペニスはすっかり形を変えて下着を濡らしているだろうということは窮屈さと濡れた感触でわかった。大きな掌に包まれ、しゅこしゅこと擦られながら同時にぷっくりと熟れて熱を持つ乳首を舌先でずりゅずりゅと擦られると頭の奥がカッと熱くなって息が詰まるほどの快感に襲われる。腹の奥がぎゅうっと重く、熱くなる。たまらず背中を反らせば、それはまるで自ら胸を彼の舌に押し付けにいくような姿勢となってびくびくと腰が戦慄いた。
「あ、あ、あ、いくっいくっ……っ!!」
ビクン! と背中を反らし、思わずシーツをぎゅうっと握り締めて旭はエドシエルの手の中で果てた。じゅわっと下着が生暖かく濡れる感触があり、目尻からこめかみまでぼろぼろと涙が流れ落ちる。一瞬目の前が白く見えたほどの快感と浮遊感にも似た解放感にくたりと体の力が抜けた。
しかしエドシエルはそんな旭の様子に構わず旭のボクサーパンツに手をかけてずるりと脱がしてしまう。べっとりと白濁した液体で濡れたペニスが外気に晒されて少しひんやりとした。脱力したペニスをエドシエルの浅黒い長い指が根元から撫で上げて、その直接的な感触に旭はびくりと身を震わせてシーツにつけていた背中を持ち上げる。するとエドシエルは指先を濡らした精液を旭に見せつけるように、その金色の瞳でじっと旭を見据えてそれを赤い舌で舐めとった。
思わず、ぞくりと背筋が震える。
「さあ、今度は俺を楽しませてくれよ?」
噎せ返るような色気を漂わせ、彼は楽しそうに笑う。旭には、その金色の瞳がギラギラと瞬いているように見えた。
「ああ、ほら……アサの体は俺を喜んで迎えてくれる」
恍惚とした様子でうっとりと目を細める褐色肌の長髪の男――エドシエルの脳が痺れるような低い声は広いとは言い難い寝室内に甘ったるく響いた。ただ、旭はベッドにうつ伏せになり枕に顔を埋めているため良い声だななどと思う余裕は無い。それよりも自らのアナルを彼の太く長い指でこじ開けられ掻きまわされる感覚に神経が高ぶり、頭がぼうっとしてくるのに体は過敏に反応してしまう。
ぐっぽ、ぐっぽ、ぐっぽ。ぐりゅ、ぐりゅっとローションによる粘度のある卑猥な音が否応なしに耳から入ってくる。一度も自分で弄った事が無いはずなのに、排泄器官であるはずのそこはすっかり緩んで彼の指を三本も飲み込み、内側の肉を滑りのある指で擦られる度じわじわと熱を帯びてゆくような気がした。
おかしい、そんな場所に指なんて入れたことは無いはずだ。エドシエルに抱かれる夢を見始めた頃から興味は出てきていたが、理性を捨てきれなかった。そのはずなのに、どうしてこの男の指を体は難なく受け入れるのだろうか。あれは全部夢だったはずだ。
「お゙っ!」
ぐりゅっ、と内部から腹側にある僅かな膨らみを無遠慮に押され、旭は思わず喉奥から押しつぶされたような酷い声を上げてしまう。先ほどからエドシエルはまるで旭の体を知り尽くしているかのように何の躊躇もなく触れ、弄り回し、攻め立てる。それはまるでここ数日の夢でさんざん旭の体に教え込んだ悦楽を現実に再現しようとでもしているようで、一度も刺激されたことのないはずの前立腺は滑った指でぐりゅぐりゅと強く撫でまわされて、旭は夢の中と同じようにピンと背中を弓なりに反らし腰をへこへこと揺らしてしまう。
「アッアッアッ、そこっ、だめっ……んっ、ふーっふーっ、お゙っお゙っ」
そんなにじっくりと弄られてしまったらおかしくなってしまいそうだった。下腹部にずっしりと溜まった熱がじりじりとその身も精神も内側から焼いていく感覚に加え、鋭く暴力的な快感が同時に襲い来て頭が真っ白になりそうだ。体が熱い、気持ちいい、全身が溶けてしまいそうで、しっかりと昂り限界まで剛直したペニスは腹に付きそうなほど反り返りながらたらたらととめどなくカウパーを垂らしている。枕も唾液でぐっしょりと濡れ、不快なはずなのに旭はそれを不快とも思えなくなっていて、与えられる快感に素直に口から零れ落ちる嬌声と共に涎が糸を引いて溢れた。
「可愛いアサ……中もすっかりトロトロで熱くなっているよ。男を受け入れたくてたまらないって、俺の指に吸い付いてくる。早く欲しいね、アサ」
相変わらず脳を痺れさせるような甘い声だ。ふーっふーっと熱い息を吐きながら、旭は強烈な快感にビクビクとその身を跳ねさせながら昨夜の夢を思い出す。美しい男の、まるで凶器のように怒張した黒光りするペニスで思い切り突かれた感覚を、夢であるはずなのに体が覚えていて腹の奥がきゅんっと切なくひくついてしまう。男のペニスなど受け入れたことのない体、しかし長く太いペニスに奥まで貫かれる快感を覚えている体。その矛盾で頭がおかしくなりそうだ。
「あぅっ、んっ、ふっふっ、こ、これはっ……ゆめっ」
男のペニスが欲しいと体が飢えている。そんなのは夢に違いない。夢でしかあり得ない。だって自分は女の子の柔らかい体や大きな胸が好きなのだ。女の子とのセックスが好きなのだ。だから……。
「ッ…………かっ、はッッ?!」
ずりゅん、と指が抜かれたと分かった次の瞬間、指とは比べ物にならないほど熱く硬く太いものがぐっちゅんとアナルに押し付けられ、そのままググッと押し込まれた。あまりの衝撃に旭は首をのけ反らせて目を見開く。メリッメリッと己の体が軋むような音がして、本能的な危機感から思わずシーツを掻いて逃げようとした。
「っ……やはり、狭いな……アサ、怯えないで? 大丈夫だから、力を抜きなさい」
大丈夫なわけがない。痛いというよりは苦しくて、息が出来なくなる。エドシエルは上手く呼吸が出来ない旭を労わるように腹部に手を差し込んで大きな掌で撫であげ、前戯で散々弄んだ結果ぷっくりと赤く腫れた乳首をきゅうっと摘まんでコリコリと押しつぶす。突然与えられるじんわりとした快感に旭はぶるりと震えた。
「ひぅっ! んっあっ、ちくびっ……ンっ、ちくびっ、だめっ」
捏ね回され舐られてひどく敏感になった乳首を再び刺激され、ビクビクと肩が震えて体のこわばりが解けてゆく。その隙を見逃さずエドシエルはゆっくりと、小刻みに腰を揺らしながらその凶器じみたペニスをずぶずぶと旭の中に埋めていった。
「お゙っ、お゙ふっ……も、入らなっ」
ペニスがめり込んでくるたびに圧縮された空気が酷い声で押し出されてくるようだった。
──苦しい、くらくらする、夢ではすんなり入ったはずなのに。これはやっぱり夢じゃないのだろうか。
「あぅっ!」
むちゅっ、とペニスの切っ先がどこか行き止まりに到達した感覚があり。旭はそれに気づいたと同時にペニスからびゅくっと白濁を溢れさせた。男はペニスに触れなくても射精することがあるのかとふわふわとした思考の中ぼんやりと妙なことを思ったが、汗ばんだ背中に柔らかく熱いものが触れてびくりと体が跳ねる。
「可愛い可愛いアサ……ようやく、君を俺のものにできる」
背中に熱い吐息がかかり、エドシエルが旭の背中に唇を落としているのだと気づく。美しい男の美しい唇が汗ばんだ肌に落ち、ねろり、と火傷しそうなほどに熱い舌が玉に浮かぶ汗を舐めとった感覚にビクンと震えた。
「な、にっ……あっあっま、まって」
この美しい男は何なのか、まさか自らが自称したように本物の悪魔なのか。問おうとした旭だったが、ずろろろっと引き抜かれてゆくペニスの感触にぞくぞくぞくっと肌が粟立ちたまらず声を上げてしまった。
「あっあっあっ」
──くる、きちゃう、この感覚を、知ってる!
ずりゅずりゅずりゅっと、ローションを纏ったペニスは再び旭の中へとめり込んできた。そして……。
ごちゅっ! と最奥をペニスの切っ先で思い切り抉られた瞬間、旭は目の前にパチパチと火花が散ったような錯覚を見た。一瞬で脳が真っ白に焼かれて気が遠くなるような感覚があり、だが再びずろろろっと内部を引っ掻くようにペニスが引き抜かれていってすぐにまたごちゅっ! と最奥に熱い楔を打ち込まれる。
「お゙っお゙っお゙ふっ、やらっ、それっ、あ゙んんっ!」
こんなのは知らない。夢の中ではただただ気持ちよくて、まるでぬるま湯に浸けられたような離れがたい中毒性のある快感というだけだった男のペニスは、現実で直腸にごちゅごちゅと叩きつけられると圧倒的な質量と熱に頭が沸騰しそうだった。無理だ、耐えられない、こんなセックスを知らない。
膝が笑ってしまい力が抜けて崩れそうになると、エドシエルは長い腕で旭の腰を抱き寄せる。最奥に切っ先を押し付けられたまま男は小刻みに腰を揺らし、そのたびにぱちゅんぱちゅんと肉がぶつかり合う音とぐぽぐぽとアナルから泡立ったローションが溢れる音が混ざり合って酷い不協和音となる。だが、旭はもう寝室に響く音など聞いている余裕は無かった。
「あっあっあっだ、だめっ、だめっこれっ……おぅっ、ひゅっ」
頭の芯まで熱で焼かれてゆく。とめどなく涙が溢れ、何も考えられない。気持ちいいなんておかしい、おかしいのに耐えがたいほど気持ちいい。腰が揺れるのを止められず、再びだらだらと射精しているのも気づかないほど体が熱くて熱くてたまらなかった。
「っ……ああ、アサ、気持ちいいね?」
恍惚とした響きの甘い声が脳の奥を痺れさせる。旭はまるで水面で溺れたようにはふはふと酸素を求めて口を開くが、息を吸う合間に意図せずあられもない嬌声が押し出されるのを止められない。
夢で抱かれた時よりもずっと苦しくて、熱くて、気が狂いそうなほどに男のペニスは気持ちいい。もう何もかも、どうでも良くなってしまう。
「あふっ、あ゙ぅっ、ふーっふーっふーっ、きもちぃ……っ。え、えど、きもちぃっ」
自分の中で男の怒張したペニスがどくどくと脈打っていて、上向いたまま収まらないペニスのせいでぷっくりと存在感を増した前立腺をごりごりと擦り上げながらどろどろにぬかるんだ熱い肉を掻き分けてゆく。
「ふぅ……ふっ……ああ、俺もっ、気持ちいいよ」
完全に胸をシーツに付けてしまった旭は抱えられた腰だけを男の前に晒してシーツの海で藻掻く。白いシーツには大量のカウパーと精液が水たまりのようになっていて、エドシエルが力強く腰を打ち付けるたびにぶるんと旭のペニスが跳ねて水しぶきを落とす。ごちゅごちゅごちゅっと勢いを増した最奥へのピストンに頭の芯が完全に焼き切れたように視界を朦朧とさせながら、旭は涙や涎や汗でひどく汚れた顔で肩越しに自分を抱く男を振り返る。
浅黒い肌を汗で濡らし、長い黒髪を掻き上げながら美しい男はその美しい筋肉で覆われた体を滑らかに動かしながら男を夢中で犯している。
「ふぅ、ふっ……っ、アサ……全部、注ぎ込むからっ……俺の子種で、孕むんだよっ」
熱に浮かされたように男はそう言って、壮絶なほどに美しい笑みを旭に見せる。金色の瞳がぎらぎらと燃えて光り、覆いかぶさる男の逞しい背中からゆらりと艶のある真っ黒な、蝙蝠のそれに似た羽が広がるのを見た。
「あ゙っあ゙っ」
この男に抱き殺されるのかもしれない。恐ろしいはずなのにごりごりと弱いところを突かれて、旭は何も考えられずただ声を上げることしか出来ない。苦しい、苦しいくらいに気持ちいい。もう、どうなってもいい。
「ッ!!」
男のペニスが旭の最奥をごちゅん! と突いた。ぞくぞくぞくっと悪寒にも似た感覚が腰の奥から這い上がってきたのと同時に、男のペニスがビクビクと震えて旭の中にびゅうっと熱いものが注ぎ込まれる。勢いよく放たれるその熱さと迸る感触に再び目の前がチカチカと明滅し、旭の思考はそのまま暗い闇に落ちていった。
ふわり、と鼻腔をくすぐる香りで意識が浮上してゆく。旭が毎朝慌ただしく喉に流し込んでいるインスタントとは違う本格的なコーヒーの香りだ。カーテンの隙間から差し込む白い光で室内の小さな埃がきらきらと瞬き、ぼんやりと眺めているとキッチンから明らかに人の気配があることに気づいて飛び起きた。ベッドから出てようやく自分がパジャマ代わりのスウェットを着ていることに気づいて頭が混乱してくる。昨夜のことはまた夢だったのか……しかしキッチンからはシンクに水が流れる音がしていた。
恐る恐るドア一枚隔てたリビングダイニングへと顔を覗かせると、一般的な1LDKの一人暮らし用キッチンに身を屈めながら艶やかな黒髪の長身の男が立っていた。何故か可愛らしいピンク色のエプロンまでつけている。
男……エドシエルが振り返ってその金色の相貌を細めた。やはり、ぞっとする程に美しい男だ。
「おはよう、アサ。もう少しで朝食が出来るからシャワーを浴びておいで」
勝手知ったる、と言った様子で旭が普段お湯を沸かすか電子レンジで温めるかしかしていないキッチンでエドシエルはフライパンを握っている。あのフライパンは確かこの部屋へ引っ越した際に買ったは良いが一度も日の目をみていなかったフライパンでは無かっただろうか。
「……夢、じゃなかったのか?」
毎日のように見ていたのは、目の前で朝食を作っているらしい褐色肌で長髪の美しい男に甘ったるく何度も何度も抱かれる夢だった。旭を悩ませていた夢の中の男は、昨夜ついに現実世界へと現れ本当に旭を1LDKのベッドに押し倒して抱いた。そんな馬鹿な話があるわけがない、そう思うのに旭の体には昨夜たっぷりとこの男に体を開かれた名残の熱が残っているのだ。
部屋の時計を見れば朝の六時半を少し回ったところで、シャワーを浴びて朝食を食べ出勤するには十分余裕がある。旭は未だぼんやりとする寝起きの頭を覚醒させるため、エドシエルに言われた通り浴室へと向かった。まだエドシエルに熱いものを注ぎ込まれた腹の奥がじんわりと熱を持っているような気がして唇を噛む。
男とセックスをするのは初めてであったはずなのに、旭の体は抵抗なくエドシエルの凶器のようなペニスを受け入れた。受け入れたどころか、意識を飛ばしてしまうほどに何度も何度も奥を突かれる度に短い絶頂を繰り返して……昨夜のことを思い出した旭は口の中にじゅわりと唾液が湧き出してくるのを感じ、こくりと飲み下す。バカバカしい、あんなのは久々のセックスだったから過敏になっていただけなのだ。
シャワーを浴びるため上に着ていたスウェットを脱ぐ。散々弄ばれた乳首がまだぽってりと赤く色づいていて旭は羞恥に思わず顔を熱くさせる。きゅん、と下腹部がひくついた気がして思わず手を伸ばし……。
ドタバタと大きな音を立てながら文字通り脱衣場から飛び出して来た旭は、フライパンでウインナーを焼いているエドシエルを不躾にも指さして震える声を絞り出した。
「あ、あ、あんた!! お、俺の体に何しやがった!!」
ごくごく普通の一般的な二十代の若者である菊池旭の、腹筋が割れているわけでも無い下腹部には、目に毒なほどに色鮮やかな蛍光ピンク色でハートマークにも似た妙な紋様が刻まれていた。
もちろん旭にこのように奇抜なタトゥを入れる趣味は無く、擦っても落ちる様子は無い。昨夜までは確かにこんなものは存在しなかったはずだ。
旭を振り返ったエドシエルは壮絶とも言えるほどの美しい笑みを浮かべ、それはそれは嬉しそうに言った。
「嬉しいよアサ、それは俺とアサの契約の証だからね」
職場の昼休み、普段はコンビニ弁当か会社近くのラーメン屋で済ませる事が殆どの旭はこの日自分のデスクで弁当を広げていた。
「あれ、珍しいね菊池君。え、もしかして昨日の今日で彼女でもできたの?!」
今日も愛妻弁当をデスクで広げていた先輩社員の渡辺が向かい合ったデスクに身を乗り出すようにして旭の手元を覗き込んでくる。これもまたいつか自炊するだろうと思い入社当時に買ったまま押入れの奥にしまい込んでいたはずのシンプルな紺色の二段弁当箱は、上段に綺麗な黄色の卵焼き、ほうれん草とにんじんの白和え、たっぷりボリューミーな鶏の照り焼きが詰められている。下段は黄色いとうもろこしが入ったご飯と、隅に少しだけきゅうりと白菜の漬物が添えられていた。
「うわ……え、すご。冷凍食品無しじゃん……」
何故か若干引いている様子の渡辺に旭は苦笑いを浮かべるしかない。
「菊池君そのお弁当どうしたの? 彼女の手作り?」
後ろからふくよかな中年女性にも手元を覗き込まれた。この事務所で事務を担当している村上だ。
「いや、彼女じゃなくって……えーっと」
夢で見た謎の男に家に押しかけられて何故か手料理を振舞われているとは言えない。
下腹部にくっきりと刻まれた紋様について、エドシエルは悪魔と契約した証だなどと言っていたが旭はそんな契約をした覚えは無かった。そう言えばエドシエルは、覚えていないだけでしているはずだよと言う。覚えが無いものは無いのだ。
この悪趣味な紋様は他の悪魔に旭が狙われないようにするためのマーキングであり、契約を結んだ人間と悪魔にしか見えないものだと言うがどこまで信じて良いのか疑わしい。そうやって大混乱に陥った朝だったにも関わらず、彼の作ったトロトロのスクランブルエッグとカボチャのポタージュは怒りも混乱も黙らせるほどの美味であり、旭はこうして弁当まで持たされいつもと変わらず出社しているのである。
「え、もしかして自炊?!」
村上が大げさなほどに驚いてつぶらな瞳を丸くする。旭は慌ててそれを否定するため首を横に振った。
「良いじゃないですか、ほら、お昼食べましょうよ」
「えー菊池君って意外と秘密主義ねえ」
村上は渋々、と言った様子で他の女性社員たちと外へランチに出かけていった。
改めてデスクの上の弁当と対峙する。思えば、母親以外の手作り弁当など初めてではないだろうか。艶やかに部屋の明かりを照り返す赤茶色の鶏の照り焼きを箸で摘まんだ。一口サイズになっており、少し焦げ目がついているのがまた食欲をそそる見た目だ。とうもろこしご飯が詰まった下段の弁当を受け皿のように下に添えながら口に頬張ると、冷めているにも関わらず甘めの醤油味と香ばしさが口いっぱいに広がった。肉は柔らかく、歯が沈み込むと鶏の旨味と濃いたれの味が混ざり合いご飯が恋しくなってくる。そこで白いご飯に黄色の粒が混ざったとうもろこしご飯を掻き込む。コーンの甘さがついたご飯は濃い味付けの鶏の照り焼きにこれ以上ない程合っていて、いくらでも食べられそうな気がした。
ほうれん草とにんじんの白和えは優しく素朴な味わいで飽きがこない安心感をもたらしてくれる。綺麗な黄色の卵焼きを口に入れれば、味付けは照り焼きに合わせてなのか、それともあのどう見ても異国……国どころか種族さえ曖昧だが……の男であるはずのエドシエルの好みなのか少し甘めに味付けされていた。再び柔らかな鶏の照り焼きを頬張り、とうもろこしご飯で口の中を調整し、きゅうりの漬物をパリッと噛むとさっぱりと口直しになる。
無心になってがつがつと弁当を食らう旭を、渡辺が前の席から何故かにこにこと眺めているが、食べることに夢中になっている旭はそれに気づくことも無くこれ以上ない程に自分の口に合う弁当に夢中になっていた。
あっと言う間に空になった弁当を前に、旭はようやく傍らに置いてあった緑茶のペットボトルに手を伸ばしてゴクゴクと喉を鳴らして飲む。ふう、と零れたため息は満足からくるものだった。
「いやー良い食べっぷりだったねー。やっぱり彼女の手作り弁当なんでしょ」
自分の愛妻弁当を食べながら渡辺が再びそう言ってくるが、本当に彼女では無いので曖昧な苦笑いを返すことしか出来なかった。
「あ、そういえば菊池君、あの不気味な荷物ってどうなった?」
不意に、渡辺が思い出したといった様子で旭に尋ねてくる。弁当を片付けながら首を傾げた旭に、渡辺はアレだよアレと言う。
「ほら、一ヶ月くらい前だったっけ。部屋の住人が行方不明になっちゃってこっちで色々手続きしたでしょ。もうゴミ屋敷って感じでさ」
ああ、と旭はようやく思い出した。あれは一ヶ月程前に、旭が担当している小さな賃貸アパートで住人が家賃を支払わないまま失踪してしまったために、ゴミ屋敷と化した部屋を大掃除したのだ。事務所からも何人か手伝って貰った大仕事だった。
部屋の中にあった物はゴミや衣類、漫画雑誌などで殆どを処分したのだが、その中に妙な物がいくつかあった。干からびた爬虫類の死骸、木の枝のような物、魔法陣のようなものが描かれた大きな布……そして、何冊かの古びたハードカバーの本。それらはさすがに勝手に捨てるわけにもいかず事務所の倉庫で保管されている。持ち主が現れれば返却し、立て替えた家賃も払って貰わねばならない。
そこまで思い出して、旭は不動産屋の事務所内で思わず大きな声を上げてしまった。
「それだ!!」
突然の大声に驚いた渡辺が椅子から転げ落ちそうになる。だが旭は先輩を気にしている余裕などなかった。
急いで事務所内の倉庫へ向かう。ファイルや段ボールが無造作に置かれた、けして整っているとは言い難い室内。いくつかの荷物を掻き分けた旭は漸くひとつの段ボール箱を見つける。一ヶ月前、あのゴミ屋敷で回収した荷物の入った物だった。
段ボール箱を開く。それは革張りの古い本だった。タイトルは掠れて読めないのだが、旭は迷わずその本を開いた。パラパラと捲っていくと、まるで導かれるようにひとつのページに辿り着く。
そこには今朝、旭の下腹部に刻まれた紋様と同じものが描かれていた。そして、折りたたまれた一枚のスーパーのチラシが挟まれている。チラシを開くと、その裏面にびっしりと手書きの文字が書かれていた。
「色欲の悪魔を呼び出す方法……」
書かれていた文字を声に出して読む。馬鹿げていると思った。オカルト趣味の人間が遊び半分で書いたものだと思っていたのだ。だってそれはあまりにも簡単な方法だったから。この紋様を書き写し、枕の下に置いて寝入る間際に自分の名前を三度口に出して言う。たったそれだけの方法であったから、つい、試してみたのだ。そして、そんなこともすっかり忘れていたのだ。
「……俺が呼んだ、ってことか?」
旭は薄暗い倉庫の中で、背中を冷たい汗が流れ落ちるのを感じていた。
(了)
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